犬田中部の山裾にあるおかんぶく池。農業用のため池だ。
「おかんぶく(おかんぶくぶく)」という変わった名前には理由がある。平成6年10月のいわせものがたりにこのような記述がある。
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むかし、犬田の在所におかんという美しい娘がいた。あまり遠くない処の、名のある旧家に女中として奉公していたが、そこに仕えていた郎党にひそかに想いを寄せるようになった。
しかし、その男には既に妻も子もあり、とても胸の中など明かす術もなく、食も細る思いであった。
苦しい胸の中を深く隠して、お盆の里帰りを願い出し、家に帰ってはみたものの心の切なさは募るばかり。一度でいいから愛されたい、あの胸に抱きしめられたいと狂おしいまでに乱れるばかり。
そして、この胸の中を打ち明けられず、あの人と毎日顔を合わせるよりはなどと考え、三十日盆の闇夜を照す蛍の明りに誘われて、いっそあの人の好きな蛍になってお側近くへ……と、袂一杯に小石を拾い、南無阿弥陀佛の声と共に、満々と水を湛えた近くの池へ「ザブン」とばかりに身を沈めた。
朝になっても帰らぬおかんを手分けして捜したが、池のほとりにおかんの履物を見付け、なんでこんなことをしたのだと泣きながら、おかんおかんと叫ぶと水面からぶくぶくと泡が立ち、おかんと呼ぶと水面からぶくぶくと答えたところから、いつしか「おかんぶくぶくの池」と呼ばれるようになった。
この池は、今も片蓋地区に静かな姿を見せている。
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犬田には犬田七不思議と呼ばれる逸話が残されており、この池はその一つだ。