裏筑波は裏じゃない

茨城岩瀬の大学生 地元についていろいろと

ヤマザクラGOミニの失敗

大和庁舎の駐車場に停まっていた元ヤマザクラGOミニのハイエース。GOミニの部分を削り取られ、白ナンバーに取り替えられ、市の公用車にジョブチェンジしていた。

新車4台のうち、2台は市の公用車として大和庁舎に、もう2台は社会福祉協議会の車として岩瀬福祉センターに留置されている。

2020年4月というコロナ禍突入の最悪のタイミングでスタートした桜川市巡回ワゴン「ヤマザクラGOミニ」。1便あたり乗客1人を割り続け、2023年9月末を持って廃止された。

「商業・医療・金融・公共交通 (駅・バス停)のいずれも徒歩圏内(800m)に無い日常生活不便想定地域について、市民の日常生活を支える移動手段の確保のため」という大義名分の下、桜川市は奮発して新車のハイエースを4台、専用ラッピングで導入し、200箇所弱あるバス停も専用デザインの新品を設置した。そこまでは良かったのだが、正直プレスを見たときから成功する気がしなかった。

1.オワってるルート

まずルートの複雑さ。コミュニティバスが意味わからんルート取りをするのは常識になりつつあるが、それにしてもここまで脈絡のないルート取りは見たことがない。

いかにも「とりあえず見栄え良いように全ての地区を通るようにしました。利便性なんて知りません。」といった感じだ。

特に酷いのが2番 西小塙・高幡ルート。岩瀬の市街地を回ったあと磯部桜川公園や磯部稲村神社、月山寺を通り南下する。ここまでは理解できるのだが、羽黒駅を避けるように西小塙の集落に入ってしまい、その後加茂部1区・2区を彷徨って高幡で終点。トライウェル等の羽黒地区の商業施設を避けていて、何をしたいのか分からない。

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↑避けられたトライウェル。羽黒地区の人々で常に賑わっている。

このルートに限らず「市民の日常生活を支える移動手段の確保のため」という狙いのクセに、地域の商業施設や病院(さくらがわ地域医療センター,個人医院など)は無視されている。

ルートがはっきりせず、経由地もテキトーなバスなんかを住民が利用するわけがない。

2.やる気のない運行日

しかも酷いのが、各路線が日に3,4本のみの運行で、週2日しか運行していないということ。先程触れた2番 西小塙・高幡ルートは磯部桜川公園や磯部稲村神社、月山寺を通ると書いたが、これら名所への観光に全く使い物にならない。宝の持ち腐れだ。

住民が「自分の地区は◯曜日と△曜日だ」なんていちいち覚えるわけもなく、そのうえ1集落に2ルートが通りバス停も2個ある場合(富谷、青柳など)は「曜日によってバス停も行き先も違う」なんて事態も発生した。

いつ走ってるか分からないバスなど住民も乗りようがない。

ヤマザクラGOミニはルート取りのマズさで1アウト、運行ダイヤの不便さで2アウトだ。

3.移動スーパー誕生

カスミは桜川市と2021年に協定を結び、「日常の買い物不便な人々の支えとなる」として移動スーパー事業をスタートした。ヤマザクラGOミニの大義名分と酷似している。

ヤマザクラGOミニでは「農村部から市街地へ買い物に行きやすく」、移動スーパーでは「農村部に買い物環境ごと持って行く」と、やり方が正反対の2事業。移動スーパー自体はカスミ側からの提案の可能性もあるが、これらの同時進行は政策の一貫性のなさを表すポイントだった。

uratsukuba.hatenablog.jp

実際この移動スーパーはそこそこ好評で、今現在も市内のどこかの集落で買い物環境を提供している。ヤマザクラGOミニとは至極対照的だった。

こうしてヤマザクラGOミニは3アウト。

住人に全く愛されず静かに消えていったヤマザクラGOミニ。集落によっては「あれ病院の送迎バスだっぺ⤴?」と、最後までバスとは認知されないまま、4台の新車ハイエースと200箇所以上のバス停ポールは役目を終えた。

どうすればよかったのか

ここまでお粗末すぎるヤマザクラGOミニを見てきたが、ではどうしたら成功したのだろう。

まず大前提として、流動がごくわずかな山村部にバスを走らせても、客なんてほぼ居ないということを忘れてはならない。

それでも、まず客層を絞って、その客層に最適化されたルート、ダイヤを組むといった策をとれば生き残るチャンスは僅かながらあった。しかし桜川市は走らせる決断だけで満足してしまった。初めから客層の想定が大雑把で、再編も何もしなかった。これに関しては市の怠慢といっていいだろう。

隣のつくば市は「筑波地区支線型バス」として4ルート走らせていたが、筑波山登山の需要が見込める1ルート以外を廃止して、代わりに本数増で使いやすくする手を採った。いわば選択と集中といったもの。これくらいやってもよかったはずだ。

10ルートあるのは「とりあえず見栄え良いように全ての地区を通るようにしました。利便性なんて知りません。」という無駄でしかない考えの産物なので、まずこの考えを捨てること。

ルートを統合して循環路線化すれば、バスを増備せずとも運行日も増やせる。ルート再編で岩瀬駅-磯部公園-磯部稲村神社-月山寺-羽黒駅岩瀬駅-富谷-南飯田-亀岡-平沢の路線を新たに設定し、桜シーズンは土休日も運行してみるとか、柔軟な運用も考えられた。

そのような「市民のためになる工夫」が全く持って見られない時点で、市にヤマザクラGOミニへのやる気がないことは明白だった。